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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2796号 判決 1969年12月17日

控訴人 上野山武之 外二九名

被控訴人 総評全硝労新東洋硝子労働組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

控訴代理人は「原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

第二主張

当事者双方の事実上の主張は、左に掲げるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(別紙債権目録、一時金一覧表、組合脱退一覧表とも。)

控訴代理人は、「別紙<省略>第二目録被保全債権欄の(ロ)欄記載の各訴外人は被控訴組各に対して、それぞれ同(イ)欄記載の金額の預託金返還請求権を有していたが、訴外佐藤一二は右各債権(但し同目録30のうちの八、八〇〇円は右佐藤の固有の債権であるからこれを除く)を前記債権者らより譲受けた。そして右佐藤は別紙第二目録のとおり、譲り受けた右債権および前記八、八〇〇円の固有債権に基づき、被控訴組合の控訴人らに対する本件各債権を被差押債権として仮差押命令を横浜地方裁判所川崎支部に申請し、同支部は昭和四三年八月二四日同支部昭和四三年(ヨ)第二三八号をもつて右申請を容れて仮差押命令を発し、右命令はその頃債務者被控訴人および第三債務者控訴人らにそれぞれ送達せられた。したがつて、被控訴人が控訴人らに対して本件各債権を有するとしても、右仮差押の解除せられることを条件としてのみその支払を求めうるにすぎないのであつて、無条件にその支払を求めることはできない。」と述べた。

被控訴代理人は「控訴人らの右主張事実はすべて認めるが、本件債権が仮差押され、被控訴人は本件債権の満足を受けることはできないが、そのために給付の訴を提起しその判決を受けることまでが禁ぜられるものではない。」と述べた。

第三証拠関係<省略>

理由

一、本件貸金債権請求の請求原因事実ならびに原審における控訴人の各抗弁についての当裁判所の判断は、左に訂正乃至追加するほか原判決理由記載のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決一二枚目うら六行目乃至七行目に「証人石井虎雄、同増田一郎、同室井正男、同高橋欣一、同小西達文の各証言」とあるのを「証人石井虎雄、同小西達文の各証言の一部、控訴人増田一郎、同室井正男、同高橋欣一本人の各供述の一部」と訂正し、更にその下に「成立に争いない甲第一〇号証、同乙第二号証」を追加する。

2  同一二枚目うら八行目「すれば、」の次に、「被控訴組合は昭和四〇年八月から同年暮にかけて数次にわたつて右組合川崎支部大会を開き組合員が斗争分担金を醵出することを決定し、右決定に基づき各組合員が右分担金を醵出してきたが、同年一二月二三日午前八時半からと同日午後四時半からとの二回にわたつて分割組合大会を開き、右大会において被控訴組合員らは各自斗争分担金として金二〇〇〇円(その内訳けは総評全硝労から割り当てられた分担金合計一五〇〇円、被控訴組合分五〇〇円)を醵出することを決定し、」を加える。

3  同一二枚目うら末行に「認められ、」とある次に、「原審における証人小西達文、同渡辺顕一の証言、控訴人山本恵一、同室井正男、原審ならびに当審における控訴人高橋欣一の各供述中右認定に牴触する部分は信用し難く、他に」を加える。

4  同一三枚目うら二行目「同年三月一杯までに」より同四行目「明らかである。」までを削除し、「まだ返済していない者は同年三月一杯までに返済するよう要請したことが認められる。よつて右弁済期はこの要請以前である訴外会社より一時金の支給された日即ち昭和四一年三月二日既に到来していたものであることが明らかである。」を加える。

5  同一三枚目うら五行目の「成立に争のない」以下同八行目「右」までを削除し、「『日歩二銭八厘の割合による遅延損害金の始期を弁済期の翌日である旨定めた』ことを認めるに足りる証拠はなく、」を加える。

二、仮差押と本訴請求について

訴外佐藤一二が被控訴組合に対し控訴人主張のような債権を有すること、右佐藤は右債権に基づき被控訴組合の控訴人らに対する本件各債権を被差押債権として横浜地方裁判所川崎支部に申請し、同支部は昭和四三年八月二四日同支部昭和四三年(ヨ)第二三八号をもつて右申請を容れて仮差押命令を発し、右命令はその頃債務者である被控訴人および第三債務者である控訴人らにそれぞれ送達せられたことはいずれも当事者間に争いがない。

そこで右仮差押命令と本訴請求との関係について判断する。債権仮差押命令は仮差押債権の保全即ち被差押債権の現状維持を目的としそのために被差押債権が現実に支払われ満足されることを阻止するにすぎない。この間の消息は、債権差押命令では「第三債務者に対し債務者に支払を為すことを禁じ又債務者に対し債権の処分殊に其取立を為す可からざることを命ず可し。」(民事訴訟法第五九八条第一項)と定められているに反し、債権仮差押命令については「第三債務者に対し債務者に支払いを為すことを禁ずる命令のみを為すべし。」(同法第七五〇条第三項)と規定されていることからも十分うかがい得るのである。したがつて債権が仮差押されても、被差押債権の債権者(仮差押債務者)の、債務者(仮差押第三債務者)に対する右債権に基づく給付請求権の態容に、たとえば無条件のものが条件付となるような影響を及ぼすものではなく、ただその終局的実現が仮差押債権者に対する関係で相対的に阻止されるにとどまるのみである。これを訴訟手続上において考えると、給付の判決をすることはもとよりのこと、その判決の執行も当然には妨げられないのである。ただ債務者(第三債務者)は債権者(仮差押債務者)に対する弁済を以て仮差押債権者に対抗し得ないが、債務者は右執行手続について仮差押命令を執行機関に呈示して、執行手続が満足段階に進むことを阻止できる(民訴法第五四四条)。従つて右のごとく解しても債務者の保護に欠けることもない。

よつて右仮差押命令の存在はなんら控訴人らに、被控訴人に対し本件債権の給付を無条件で命ずることの妨げとなるものではない。

三、よつて被控訴人の本訴請求を認容すべく、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用につき民事訴訟法第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川添利起 長利正己 田尾桃二)

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